「希望による無痛分娩」と「医学的適応による無痛分娩」について
- 無痛分娩を実施している医療機関には妊産婦さん自身のご希望による無痛分娩を引き受けている施設とそうでない施設があります。ここではどうしてそのような違いがあるのか、ということについてご説明します。
- お産のあり方は時代とともに変化します。わが国では第二次世界大戦以前は、大多数が自宅分娩でした。しかし戦後は次第に病院、診療所、助産所などで分娩が増加し、1980年代以降は99%以上が施設分娩になっています。
- また、お産のあり方は国によってもかなりの違いがあります。わが国では、無痛分娩はお産全体の5.3%(2014年から2016年)に行われていますが、英国では20.8%(2012年)、米国では41.3%(2008年)、フランスでは65.4%(2016年)で行われています。このような大きな違いがおきるのは、一般の方のお産の痛みに対する考え方に、国ごとの違いがあることによると考えられます。
- 陣痛の痛みは大変強いものです。わが国では「産みの苦しみ」という言葉があり、陣痛は自然のものなので、お産では避けられない、我慢すべきものという考え方をする方が多数派であるかもしれません。しかし、無痛分娩が多い国では、陣痛の痛みもけがや病気の痛みも痛みには違いがない、取り除くことができるのであれば取り除いた方がいい、という考え方が普通になっているようです。当然のことですが、お産をされる方が無痛分娩を必要としなければ、その実施率は低くなります。
- 無痛分娩を安全に実施するためには、適切な設備と人員の配置が必要です。無痛分娩を希望される方が少ない場合は、分娩施設がいつでもご希望にお応えする体制を整備することは難しくなります。
- その一方で、肉体的精神的要因のために、陣痛の痛みがあると、安全にお産ができない方、陣痛の痛みさえ取れればお産ができる方がおられます。こういう方々に安全にお産をしていただくためには「治療」としての無痛分娩が必要になります(これを専門家は医学的に必要性がある、という意味で「医学的適応がある」と表現します。)多くの病院ではこのような場合、状況が整えば無痛分娩を行います。無痛分娩が難しい場合は帝王切開を行うことになります。
- このような事情で、現在わが国の分娩施設は、無痛分娩を取り扱っていない施設、医学的適応がある場合だけ無痛分娩を実施する施設、妊産婦さんのご希望があればできる範囲で無痛分娩を実施する施設が混在している状況にあります。
- 2017年に行われた日本産婦人科医会の調査で、無痛分娩の実施率がかなり増えてきていることがわかりました。わが国の若い女性のお産の痛みに対する考え方に変化が起きている可能性があります。今後、無痛分娩を希望される方が増えれば、それに対応できる医師やスタッフも増えて、ご希望にお応えできる施設が増えてくると考えられます 。
- 無痛分娩取扱施設の選択にあたっては、各施設の無痛分娩への対応がどのようなものなのか、個々に確認していただくことが大変重要です。